本日 101 人 - 昨日 14 人 - 累計 72114 人

ENCOLE

  1. HOME >
  2. 続く森 >
  3. ENCOLE
(1)十五夜草の小さな決心
(2)Sexy or Cute
(3)酒盛り
(4)オペラ座
(5)call
(6)お菓子と悪戯
(7)贈り物
(8)お正月は…
(9)シャナイ恋愛
(10)もしかしたら。
(11)Mail
(12)Happy Valentine
(13)Whiteday call
(14)バンパイア
(15)クリスマスキャンドル
(16)誕生日の受難






(1) 十五夜草の小さな決心



雪親の幼少期のお話。
神父様(紫苑/シオン)健在です。
一緒に教会に住んでいます。

___


「ただいまぁ~!!」

パタパタという、軽い足音と共にやって来た人物を見て、紫苑は小さく微笑んだ。

「お帰りなさい、雪親」
「ただいま、しんぷさま!!」

満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに笑う雪親を見て、紫苑も同じ様に笑顔が零れた。

「今日は、何処で遊んでいたんですか?」
「こうえんだよっ!!あのね、おすなばでおやまをつくったの!」
「そうですか」

見れば確かに雪親の手も顔も、砂が至る所に付いている。

「面白かったですか?」
「うんっ!」
「では、手とお顔を洗ってきて下さいね。そのままでは、夕食を食べる事が出来ませんよ?」
「!!!」
「うがいも忘れずにしてくださいね?」

慌てて洗面所へと向かう雪親に、声をかけながら、紫苑は料理を皿へと盛りつけていった。
サラダやハンバーグ。スープに手作りパン…全体の栄養バランスや、彩りまで考えてつくられたそれらは、食べる者への愛情が窺い知る事が容易に出来る品々だった。

「洗った~!」
「では、このお料理を持って行ってもらえますか?」
「はい!」

嬉しそうに返事をする雪親に、パンの入ったカゴを持たせ、自分はスープの皿を運んだ。
全ての料理を二人で運びながら、雪親は今日の出来事を事細かに紫苑へと報告する。

「でね、あいかちゃんとあそんでたら、なつみちゃんがきたの」
「そうなんですか」
「ボク、みんなで『あそぼ』って言ったんだけど、あいかちゃんが『どっかいきなさいよ、インラン』ってなつみちゃんに言ったの」
「………………」
「そしたらなつみちゃんは『あんたこそ、ゆきちかくんをとるんじゃないわよ、このあばずれ』って」
「…………………………………………」
「ねぇ、しんぷさま。『インラン』とか『あばずれ』ってなぁに?」

真っ直ぐに見上げてくる雪親に、ただ言葉を失う紫苑。

「しんぷさま?」
「………………雪親、将来は男子校にしましょう?」
「だんし…?」
「共学はやめなさい、えぇ…絶対に」
「?はぁい」

小首を傾げるが、素直に返事をする雪親に安心して、紫苑は笑顔を取り戻した。

「では、雪親。夕食にしましょう」
「やったぁ~」

こうして、雪親の進学先は男子校に決まった。


「………今時の人の子は、恐ろしいですね」
「?」




(2) Sexy or Cute



「…なぁ、シュバルツ」
「…………何だ」
「俺は…着物がいいと思うんだが、どう思う?」

全ては、この一言から始まった。


ここは、私立彩海男子高等学校。
場所は生徒会室だ。
現在、室内にはパイプイスに座った副会長のレギオンと、この高校の教員であるシュバルツが、棚から資料を探しているだけだった。

「その発想の、元は何だ。その前に、せめて先生を付けろ」
「いいじゃん別に。今更だし。っつーか、今度の文化祭で雪親に何を着せるかって話しだよ」

この高校には、代々生徒会長が仮装をして文化祭を盛り上げるという風習がある。
今年の生徒会長の雪親は随分と可愛いらしく、レギオン、シュバルツ両名の想い人でもあるのだ。

…もちろん、全員男だ。

「………それで?」
「兎耳も捨て難いんだけど、やっぱし着物がいっかなぁ~って…」
「……………いや、猫耳だろう」
「えっ?」

椅子に座りながらダラダラ喋っていたレギオンは、そこから滑り落ちるのを何とか堪えた。

「だから、猫耳だ」

書類を棚から引っ張りだしながらも、繰り返すシュバルツ。

「……………マジかよ」
「それ以外に、何があると言うのだ」
「いや、だから着物っつってんじゃん」
「……っふ、ガキが」
「………オヤジめ」

お互いの間に、見えない火花が散った。

「猫耳だぁ?確かに雪親なら似合うかもしれないが、着物の方がいいだろ?着物を着た時の立ち方とか、歩く姿とか!」
「確かにいいが、猫耳の可愛さには劣るだろう。フワフワとした耳と尾を動かし、下からあの大きな目で見上げられてみろ!」
「確かにたまらんが、着物が着崩れて鎖骨辺りまではだけた姿を想像しろ!喰ってくれと言ってる様なもんじゃないか!」
「甘い!子供の様なあどけなさで無防備に近付いて来た雪親に、快楽を与えた瞬間に変わる表情…何故わからん!」

怪しさ大爆発の会話である。

「色気を求めるならば、雪親よりもスノーレットの方が良かろう!」

スノーレットと言うのは、雪親の双子の兄だ。

「そっちは既に交渉済みなんだよ」
「なに?」
「『お前が着ろ』っつわれたけどな」
「だろうな…」

二人とも雪親同様、スノーレットにも想いを寄せるが、いかんせんこちらは雪親より少しだけ手厳しい。

「いや、敢えてこそ…だからこそ、可愛い系の雪親が色っぽいのが見たいんだ!」
「いっその事、二人に着せてしまえばいいではないか?一人が嫌だと言うのならば、雪親とスノーレットの二人で…」
「確かに、それだったら二人とも納得するかもしれないな!」
「学園のアイドルである二人がやれば、学園祭が盛り上がるとでも言えば、根が真面目な雪親はやるだろう」
「スノーレットも、雪親が頼めばやるだろうし」

ならば、どちらが何を着るかという論議が再びされるその背後に、怪しい影が忍び寄る。

「……………二人とも、何してんの」
「「……………」」

冷ややかな声に振り向けば、そこには冷ややかな表情の雪親とスノーレット。

「……………馬鹿じゃない?」
「いや、スノーレット。これには、ふかぁい訳が!」
「へぇ…どんな訳か、聞いてみたいなぁ。しかも、シュバルツ先生まで」
「雪親。これは断じて私の本意ではない。こ奴が…」
「うわっ!てめぇ、人のせいにすんなよ!」
「煩い、貴様のせいだろうが!」
「「二人とも、煩い」」
「「……すみません」」

美しい程のユニゾンで叱られ、大人しくなるいい男二人。
異様な光景である。

「そんなに見たいんなら、自分で着ればいいじゃない」

振袖姿のレギオンに、猫耳シッポのシュバルツ……

「スノー兄さん…ちょっと可哀相かもι」
「いいんだよ、雪親。公衆の面前で晒し者にしとけば。僕らで勝手な妄想してる奴に同情はいらないよ」
「それもそうか。むしろ、写真とか撮っておいた方が、後々いいかも」
「いいアイディアだな」
「「?!!」」

この後レギオン、シュバルツの両名が謝り土下座し泣き付いて、何とか恐怖を免れたのは誰も知らない。




(3) 酒盛り



雪、スノー、シュバ、レギの四人は、現代で同居中です。
雪、スノは学生ですが…まぁ、ねwww
お酒は、成人してからだぞ?w

___

最初にそれを提案したのは、珍しくもスノーレットだった。



「ねぇ、お酒…飲まない?」


「?」
「「えっ?」」

リビングでTVを見ていた魔族二人は、スノーレットの珍しい提案に一瞬キョトンとし雪親は笑った。

「いやね、久しぶりに家でゆっくり飲みたいなぁ…って思って」
「宅飲みって言うんだっけ?そういうの。おつまみは、俺が作るよ」
「雪親もこう言ってるし、おつまみ班と酒班に別れて買い出しに出掛けようか」

そんな感じで、スノ雪兄弟が魔族二人を置いていく様にして事は進められた。



大量の様々な酒と沢山の雪親のお手製おつまみがリビングのローテーブルに並ぶと、4人は酒盛りを開始した。

「「「「かんぱーい」」」」

カチャンというガラスのぶつかる音と共に、それぞれのグラスが傾く。
スノーレットはカシスオレンジ。
雪親はカルーアミルクと、それぞれ甘いカクテル。
レギオンはウィスキーをロックで。
シュバルツは日本酒をお冷やで。
それぞれが、それぞれの好みのものを、自由に飲んでいた。

「コレ甘くて美味しい。どこのメーカーかな?」
「そんな甘ったるいの、よく飲むね。雪親」
「どちらの酒も甘いのには、さほど変わらん」
「ん、雪親。このおつまみイケる」
「それなら、おかわりまだあるから」
「スノーレット、それをとってくれ」
「これ?はぃ」

ワイワイと楽しく酒盛りが繰り広げられている中、魔族二人の思惑は偶然ながらも一緒だった。

『酒に酔った、二人を………ふっふっふ』つまりは、そういう事だった。

酒盛りが始まり、はや数時間。
いい感じに酒が無くなり、酒盛り独特の空気がリビングを包んでいた。
スノーレットも雪親も、元々酒は飲めるが強い方ではない。
口当たりのよい酒とこの場の雰囲気に、いつの間にかグラスをいつも以上に空けていたらしい。
それすら気付かない程に、二人は飲んでいた。

「……どっちだ」

目の前で話している雪親を眺め、隣に小さく声をかけるシュバルツ

「……スノーレット」

同じく、目の前で楽しそうにグラスを空けるスノーレットを見て、それに答えるレギオン

「ならば、俺が雪親か」
「……雪親も捨て難い」
「……貴様」
「わかってる」
「ならば、文句を言うな」

あと、少し。
スノーレットも雪親も、目が潤んできている。
肌はほんのりと紅く色付き、トロンとした目つきとゆったりとした動きが悩ましい。
ゴクリッと生唾を飲み込み、焦りを押さえる。
さぁ、そろそろ自室へ連れ込もうか…と立ち上がろうとした所で…

「「……………」」
「「?」」

突然双子が黙り込んでしまい、レギオンもシュバルツも怪訝な顔をした。
まさか、目論みが……

「「……っふふ」」
「「???」」
「「あはっ………あははは」」

これは!!魔族二人が気付いた時には、事が遅かった。

「あははは!シュバルツ、ホント笑えるよね」
「っふふふ。レギオンの方が、笑えるよ兄さん」
「「って、二人共笑えるんだけどね~」」
「あはははは」
「ふふふふふ」
「「…………………」」

何だ、コレ。正しく二人の胸中の叫びが、顔に如実に現れていた。
突然笑い出し、笑えると言われ、実際に大爆笑されている。
何だか、ガックリといった気分だ。

「そだ~!雪、久しぶりに一緒に寝よ?」
「ホント?やった~。スーちゃんと一緒~」

お互いが幼い頃の呼び方で呼び合うと「行こ~」と、さっさと自室へ戻って行ってしまった。

「「………………。」」

後に残された二人は、酒の空瓶や缶。
あいた皿や残ったおつまみを見て、顔を見合わせた。


次の日、二日酔いで唸る双子とガックリと意気消沈の魔族二人が、綺麗に片付いたリビングにいたという。

「ねぇ、雪親。昨日片付けたっけ?」
「うぅっ……覚えてない~」
「………何て顔してるのさ、二人とも」
「変なの」




(4) オペラ座



格調高いオペラ座に、白い仮面の怪人が住んでいる。
それは、誰もが知る噂。
しかし怪人の名がシュバルツであり、彼が住家にしているオペラ座のお抱え役者の雪親に歌の指導をしている事は、誰も知らない。

それは、雪親自身も例外ではなかった。

シュバルツは一切姿を表さず、雪親は死んだ親代わりだった神父が生前話していた『音楽の天使』だと思い込んでいた。
そんな中、不慮の事故により看板役者が歌えなくなり、雪親が歌劇の主役に抜擢された。

始めは戸惑っていた雪親だったが、次第に己の歌に自信を持ち『天使』に感謝し、更にのめり込む様になった。

その裏でシュバルツが、看板役者が使用する物に毒を混ぜたり、支配人を脅し雪親を主役にし、客席は特等席を必ず自分の為に空けておく様に言ったりしている事も知らないで…

耐え切れなくなった支配人が代わり、新しく若い子爵が後援者としてやって来た。

名前はレギオン。

彼は昔、幼少期の少しの間だけ雪親と過ごした事があった。
そして、互いに淡い恋心を抱いた仲でもあった。

そんな二人が再び出会い昔話に華を咲かせれば、すぐに当時の想いも甦る。
あっと言う間に二人は恋仲となった。

しかし、シュバルツはそれを善しとしなかった。彼自身も雪親に想いを寄
せていたからだ。
彼は怒った。

己の醜い容姿を嫌い、去ってしまった過去の人々と同じなのか…ならば姿を見せ己の手元に置き、永久を共に過ごそうではないかと。

その歪んだ想いを実行し、怪人は雪親を己の様子住家であるオペラ座の地下へと連れ去った。

オペラ座は混乱の渦と化した。
突然として、歌姫が消えたのだ。

混乱の中レギオンが思い出したのは、雪親が信じた『音楽の天使』と『オペラ座の怪人』以前から嫉妬と不信を持ち、調べていくうちに二人は同じ怪人であると知ったのだ。

ならばと、町中を巻き込み「怪人を捕まえろ」「怪人を殺せ」の声を轟かせる。

偶然、地下への秘密の扉を見つけたレギオンは、そこで雪親を見つけた。
そして、シュバルツとも出会った。
シュバルツはレギオンを殺そうとするが、雪親の必死の説得とレギオンの街中やオペラ座の現状の説明。

そして、地下への道を見つけた人々の怒りと狂気の混じった声が聞こえて来た為、その怒りを納めた。
そして、雪親への想いもその胸へと納めた。

己には、愛する人を幸福には出来ないと知り…しかし彼には、それを惜しむだけの時間は無かった。

ついに街の人々が彼等の所にまで、たどり着いたのだ。
シュバルツは地下湖に船を浮かべ、それに乗り込み海へと櫂を漕ぐが、誰かが放った銃弾に当たった様だった。

しかし既に船は遠く、闇へと飲み込まれてしまい、彼の安否は何者にも確かめ様が無かった……


怪人=エリック→シュバルツ
歌姫=クリスティーヌ・ダーエ→雪親
子爵=ラウル・シャニュイ→レギオン




(5) call



15禁…ぐらいでしょうか?

自己責任で、お願いします。





『call』

赤い革の首輪と銀の鎖。
それ以外に変わったのは、きっと俺のこの心。
「シュバ」
城の長い廊下を歩いた先の、謁見の間で部下と話していたシュバルツ。
仕事中だったみたいだけど、俺には関係ない。
「シュバ、暇なんだよ」
「私は暇ではない」
「でも俺は暇なの」
ぶぅっとむくれて、シュバルツの側に座り込む。
金属独特の音で、鎖が鳴いた。
先程から部下の人はオロオロしていて、ちょっと面白い。
「もぅ、遊んで!遊んで!遊んで!」
「全く…」
猫みたいにジャレついてみると、呆れたような視線をよこし、深く大きなため息を吐いた。
…怒っちゃったかな?
コッソリ見上げると、ちらっとこっちを見たシュバルツは、すぐに部下の人を見つめた。
「引け。しばらく人払いを」
「はい。失礼いたします」
深々と礼をして、部下の人は去っていった。
あ、ちょっと美形だったかも……
「誘っておきながら、他の奴に現を抜かすとは…いい度胸だな」
「えっ?サソウ?ウツツ?」
何の事だか分からず、小首を傾げるといきなり首輪に繋がれた鎖を引かれた。
自然に椅子に座るシュバルツの膝に飛び込む形になる。
「我が儘な子猫には、お仕置きが必要か?」
嫌な予感と共に、期待が下腹部を熱くする。
シュバルツの男らしくも綺麗な指が、頬から喉元へと降りて行き、やんわりと気道を締め上げる。
「………っぁ」
「構って欲しかったんだろう?」
真っ赤になる視界で、笑いかけられた気がした。
あぁ…限界だ。
そう感じた瞬間、手が退けられて一気に空気が流れ込む。
「っごほ!っごほ!」
苦しくてむせ込み、自然に涙が溢れ出した。
顎を持ち上げ、俺の顔を見るシュバルツはどこか満足気であり、俺は何も言うことが出来ない。
「…上手く出来たら、欲しい物をやろう」
そう言う不敵な笑みが妖艶で…抵抗なんて、思いもつかない。
「やれ」
「はい、シュバルツ様」
ズボンから彼の自身を取り出し、口にくわえ込み一生懸命に奉仕をする。
「………雪」
その声で名前を呼ばれたくて、今日も俺は貴方に飼われる




(6) お菓子と悪戯



10月31日
この日はいわゆるハロウィンと言うやつで、仮装をした子供達が家々を尋ね「Trick or Treat!(お菓子くれなきゃ、悪戯するぞっ!)」と、お菓子をねだって歩き回る祭だ。
元々は、日本国の風習であるお盆に近いものだったそうだが、現在では体のいいお祭りだ。
そんな風習だが、何故かアイツは楽しみにしていた。

「ランタンは作ったし…パイとシチューと…あ!!お菓子!!」
「おい、スノー」
「なに?シュバ」
「…いや、なんでもない」
「そう?」
変なシュバルツ。そう言いながら微笑んで菓子をかごに詰めるスノーレットは、普段めったに見せないほど嬉しそうに笑いながら準備を進めていた。
コイツと共に生活しだすようになってそれなりにたったが、こんなに楽しそうに過ごすコイツは、初めてな気がする。
雪親とレギオンが来て、ハロウィンパーティーをするのだと喜んでいた。
「…何時ごろからだ?」
「ん?7時頃だよ」
7時…あと、2時間はあるじゃないか。
「で、何を着るんだ?」
「…じゃぁ~んっ!!」
ニコニコと満面の笑みで取り出したのは…
「耳?」
「そうだよ!僕は、狼男なんだ!!」
カチューシャに黒い三角の耳がついた物を頭に載せ、少し頬を染めた。
嬉しそうに微笑み、見上げてくる。
「…がぉ」
「!!!」
そのまま、勢いよくスノーを抱きしめえると首筋に顔を埋めた。
「え?!ちょっと?!!」
「大丈夫だ。あと2時間はある」
「はぁ?!」
「こんなに美味そうなモンスターは、退治しないと…な?」
「ちょぉっ?!んっ…やぁ……」

その後の事?
さぁな…気になるのならば、貢物が必要だぞ?

Trick or treat?




(7) 贈り物



何の変鉄もない、ただの秋の一日。
仕事の合間に時折休憩を少しいれつつ、何事もなく只淡々とこなしていく。
この魔王という地位についてからの毎日はこんなもので、今更ながら何故己がこの様な事を行わなければいけないのか悩んでしまう。
……仕方がない。
そう諦めて、はや何年経ったのであろうか。
数える事もめんどくさくなってしまう程の、長い月日だ。

「シュバルツ様…」

執務室の外から、控え目に…しかし、しっかりとした口調でかけられた声。
オルテシア…部下の一人で、戦闘部隊長の長。
女だてらのその腕前は、それなりに評価している。

「入れ」

声をかければ、そっとドアを押し開いて部屋へと入ってくる。
ここへとやって来るのは珍しい。

「お仕事中に、大変申し訳ありません」

真っ赤なドレスを身に纏い戦う姿は、まるで踊るようだと誰かが話していた。

「あの…」

えっと…と、何だか口ごもってしまっているオルテシアは、いつもの歯切れのよさが無い。

「用が無いのならば、下がれ」

早く、この書類を片付けたいのだ。

「…………」

未だにその場を離れず、悩んでいる様子のオルテシア。
しかしながら、その様な事に構ってもいられない。
放っておいて仕事をこなしていると、ゆっくりとオルテシアが近づいてきて、机の上に小さな箱を置いた。
綺麗に包装れたそれは、手のひらより少しだけ大きめであり、やけに薄い。
丁寧にリボンまでかけてあるではないか。

「……何だコレは」
「……やはり、気がついていらっしゃらなかったのですわね」

穏やかに、何処か困ったように微笑まれる。
ワタシが、何をわすれたというのだろうか。
しかしながら、考えてみても思い当たる節がない。

「何が言いたいのだ」
「…おこがましいですが、陛下へ献上させていただきたく」

ドレスを軽く持ち上げ、丁寧な一礼をする。
今更ながら、この女のドレスがいつもより上等なものである事に気かつく。
それよりも……

「献上?」

物を贈られる事には慣れているが、何かしらの理由があるはずだ。
賄賂…とも思ったが、オルテシアは何故だかそう言った事はしない。

「もぅ……失礼ながら、ご自愛なさってくださいませ?」

丁寧な言葉に苦笑を混ぜて、オルテシアは踵を返した。

「お誕生日、おめでとうございますですわ」

その言葉で、ようやく合点し頷いた。
手元のこの箱は誕生日プレゼントなのだろう。
顔を上げて視線を向ければ、そこにオルテシアの姿は既に無かった。
紙を外し、中身を確認すれば、一流の職人が作ったのであろう羽ペンが。
確かに、最近調子が悪った…
早速試し書きを数回繰り返して、先程の書類へと一つサインを印した。
滑らかに走るペンに、心地好い気分を感じて、再び仕事へと戻る。
何回目か忘れるぐらい目の誕生日は、仕事と羽ペンとで過ぎていった。




(8) お正月は……


元旦。

「とぉ~しの、は~じめの~、ふんふんふ~ん、ふふ~ん♪」
「知らないのなら、歌うな」
「うるせぇよ!」

レギオン、シュバルツ両名が新年早々向かう先はただ一つ。

‐ピンポ~ン‐

「あれっ?レギオンとシュバルツ?」

もちろん、愛しい雪親の所。

「「あけましておめでとう、雪親」」
「あけましておめでとうございます。凄い。二人共、着物だぁ」

レギオンは濃紺の、シュバルツは深い茶色の単色の着物を、それぞれ着込んでいた。

「そういえば、二人一緒だなんて珍しいね?」
「ここに来る途中で、出くわしちまったんだよ」
「不本意ながらな」

そう言う二人の顔が、お互いかなり嫌そうなので、雪親は小さく笑った。

「そんな事より、雪親。これを着ろ」
「何?」

シュバルツが差し出したのは、着物の様だ。

「えっ?俺に?」
「新年なんだ。お前も着ておけ」
「よく分からない、理由だな」
「野良犬は黙っていろ」
「誰が野良犬だ!」
「貴様だ」
「あの!!俺、着替えてくる!」
「着替えに、うちの者を使え」
「えっ?」

一触即発の危険な雰囲気に耐え兼ね、着替えに室内へ戻ろうとした雪親。
シュバルツの一言で、固まった。

「おめでとうございます、七瀬様。お手伝いをさせて頂きに参りました」

何処からともなく現れた、数人のメイドさん。

「やれ」
「「「「はい」」」」
「え~?!」

シュバルツの一言で、雪親と共に室内へと消えていった。

   数分後  

「シュバルツ様、レギオン様。大変お待たせ致しました」
「ご苦労」
「下がっていろ」

メイドさんが出て来て、深々と頭を下げたのに偉そうに答え、二人は室内に入り込んだ。

「「…………………」」
「……………バカ」

そこには、真っ赤な着物に華や蝶の柄の着物を着た雪親が、可愛いらしく座っていた。
そう。つまりは女物の着物…振り袖姿であり、朱く頬をそめ瞳を潤ませる姿は、二人には誘っている様にしか見えない。

「………シュバルツ」
「何だ、レギオン」
「ナイスチョイス」
「当たり前だ」
「何が、ナイスなのさ!これ女の人用じゃないか!」
「「バッチリじゃないか」」
「声揃えて、言わないでよ!」

やけに意気投合の二人に、雪親はかなりご立腹。

「まぁまぁ、雪親。そんなに怒るなよ」
「十分、似合っている」
「そう言う問題じゃない!!」

怒る雪親を尻目に、二人は視線を合わせた。

「では、早速…」
「やるとするか…」

キョトンとする雪親。

「え?何を?」
「「姫はじめ」」
「そーゆー事?!!」

真っ青になる雪親に、満足そうに微笑む二人。
結局、今年も彼等に振り回される雪親だった。




(9) シャナイ恋愛



『お疲れ様でした。これから、9時30分まで自由散策のお時間となります』
マイクを通した声が車内に広がる。
彼らを見送った後は、自分達もしばし休憩がとれる。
……って聞いてるかのかな、この人達は?
『それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ』
笑顔で挨拶を終えて、下車の準備をする。
チラッと運転席を見ると、少し疲れたのか首を回したりしていた。
「行ってらっしゃい。お気を付けて」
楽しそうに園内へと向かうカップルやグループを見送る視線に、少しだけ羨望が混ざる。
「ね、ね。バスガイドさんも一緒に行かない?」
俺達帰ってくるまで暇でしょ?
またか…。そうは思っても表情には出さずに、笑顔をもう一度作り直す。
「すみません、待ち時間もお仕事ですので。私たちの分まで楽しんできてください」
そう言って手を振ると、渋々ながらも何とか行ってくれた。
「ふぅ…」
「お疲れだな」
「?!!」
後ろから突然声をかけられて、びっくりして振り返るとそこには運転手…レギオンがいた。
「レギオンこそ、お疲れ様。肩こったんじゃない?」
長時間だったし…と見上げると、何故だか不機嫌だ。
「レギオン?」
「雪…また、絡まれただろ?」
「ん…う、ん」
もしかして、それが不機嫌の原因?
車内に入り、レギオンの隣の椅子に座る。
「お前は、自分が魅力的だって事何度言えば理解できるんだ?」
いきなり、お説教モード?
「ご、ごめんなさい」
「ただでさえ、男のバスガイドは珍しい。更にお前は可愛いんだ」
「う…ん……」
こうやって面と向かって褒められると、かなり恥ずかしいんだけど…今は怒られてる訳だし…
「雪、聞いてるのか?」
「ん、ごめんなさい」
今日は何時に無く真剣だ。
そうは思っても、やっぱり照れてしまって顔が熱くなる。
「雪?聞いてないだろ」
「………聞いてます」
ヤバイ。めちゃくちゃ怖い。
「…9時半か」
小さく呟いたレギオンの顔が、怖い。
逃げようとした瞬間、腕を引っ張られレギオンの上に腰掛ける格好になる。
「れ、レギオン?」
「時間はたっぷりある。少し…お仕置きしようか」
コワイ、コワイ、コワイ、コワイ!!!!
するりと太ももの内側を撫でられて、ピクリと反応してしまう。
「いい子に出来たら、イかせてやるよ」
「んやぁ…」
お願いだから、帰ってくるまでに終わらせて…




(10) もしかしたら。



場内を主を探して、その人物は歩き回っていた。
「魔王!シュバルツ!!どこにいる!」
その際、敬称も付けずに大声で主を呼ぶが、誰一人として咎める者はいなかった。
それどころか、道を譲り深々と頭を垂れる。
そんな事も気にも留めない様は、それが当たり前だと理解している為の行動だ。
「シュバルツ!!」
魔王の私室の扉を勢いよく開けると、外から入る風にその長い髪を遊ばせながら、ソファーに座るシュバルツの姿があった。
よく見ると手に厚めの本を開き、そばのローテーブルにはティーカップが乗っている。
紅茶の減り具合からして、かなり前からここでそうしていた事が伺えた。
「……シュバルツ、貴様ここで何をしている」
「見て解らないかね?本を読んでいる」
では、自分が場内を大声で名前を呼びながら歩き回っている間、コイツは優雅に寛いでいたというのか……
えも知れぬ怒りが込み上げて来た。
「で、レギオン。君は何をしているんだ?」
「貴様を捜していたんだ!執務をやれ!!」
「あぁ…そんなもの、あったな。やっておいてくれ」
「自分でやれ!俺は既に隠退したんだ!」
「全く、面倒だ」
心底嫌そうに首を振るシュバルツは、パタンと本を閉じた。
「では、レギオン。私が執務をする代わりに、君は何をくれるんだい?」
「……は?」
美しく整った、レギオンの顔が間抜けに崩れた。
そんな表情を楽しみながら、シュバルツはニヤリと口角を持ち上げレギオンを見上げる。
「私はやりたくもない仕事をしなければならないのだよ?何かしらのご褒美が欲しいのだが?」
その表情から、何かしらで満足出来なければ仕事はしないとわかり、レギオンは思わずため息をついた。
「……わかった」
「さすが、前魔王殿だ」
「だったら、とっととするぞ。現魔王殿」
クックッと笑うシュバルツを見て、レギオンは盛大に嫌な顔をした。
シュバルツのそばまで行き、軽く腰を屈めると チュッ 軽く触れる程度のキスをした。
「………終いか?」
「終いだ!早く執務をしてこい!」
真っ赤になるレギオン。
彼からの口付けは、いつも軽い。
それは照れから来るものだと理解していて、シュバルツはその反応を楽しんでいるのだ。
「ックックック…我が恋人は、随分と可愛いらしい」
「気色悪い事を言ってないで、早く仕事をしろ」
「仕方がない」
シュバルツは立ち上がると、おもむろにレギオンを抱き寄せ、深くキスをした。
「?!」
始めは驚き抵抗したレギオンも、絡み慈しむ様なシュバルツの口付けに翻弄され、気付かない内に己から体を密着させていた。
「……ふっ…ぁ」
「おや、物欲しそうだが?」
「!!!」
真っ赤になるレギオン。
「では、仕事を済ませてしまおうか」
レギオンに背を向け、扉から出る前に振り返った。
「レギ。『イタズラ』をしなければ、可愛がってやろう」
「!!!」
自慰行為を含む言葉を言われた為か、それを見透かされた為か、再び真っ赤になったレギオンを見て、シュバルツは満足気に笑って出て行った。
「………っち」
一人になると、先程シュバルツが座っていたソファーに座り、本を手に取り紅茶を飲んだ。
執務から戻って来たら、紅茶を入れよう。
そんな事を思いつつ、己の本に視線を落とした。




(11) Mail



私立彩海男子高等学校。
現在どのクラスを覗いても、一生懸命勉強に励む生徒の姿を見る事が出来るだろう。
その中の一つ“2年A組”。
現在グループワーク中だ。
(…………別れた)
せっかくのグループワークなのに……そう、一人ムッとしているのは、七瀬雪親。
恋人である同じクラスのレギオンと、違うグループになったと言ってムッとしているのだ。
(つまんない…つまんない…つまんない!!)
かなりご機嫌ナナメの様子。
そんな中…
「?!」
ポケットの中で、メールの着信を知らせるバイブが動き、慌てて机の下でケータイを取り出した。
『From:レギオン 本文:真面目に勉強しろよ。んな、むくれた顔してないで…な』
パッと顔を上げると、少し離れたグループの中でニヤッと笑うレギオンと目があった。
(見られてた!)
恥ずかしく思い、慌ててメールを返す。
『From:雪親 本文:見てたの?!イジワル(>_<)ちゃ~んと、勉強してるよ~だ。誰かさんと違って、ケータイでなんか遊んでませんよ~(-.-)』
すぐにレギオンの方を向くと、メールを読んでいた。
(あ…笑った)
ほんの少しだけ口角を上げたのが見え、雪親は何だか嬉しくなった。
すぐに、メールが返って来た。
『From:レギオン 本文:へぇ…俺には一緒になれなかったから、つまらないって顔に書いてあるのが見えたけどなぁ?』
『From:雪親 本文:え~?それは勘違いだよ~?別に、つまんなくないし~』
そう送った後、教師が近付いて来たので急いで携帯を隠して勉強をしている風を装った。
メールがレギオンから来たみたいだが、とりあえず無視をして教師をやり過ごした。
携帯を開いてメールを確認する。
『From:レギオン 本文:つまんなくない?そーか。俺は雪親が一緒じゃなきゃ、何やってもつまんねーけどな』
そろりと視線を廻らせ見つけた人物は、甘く優しい瞳で雪親を見つめていた。
高鳴る心臓を抑え様と前を向いた瞬間、またもやメールが届いた。
『From:レギオン 本文:雪親、こっち見ろよ』
雪親は落ち着いてゆっくりと、もう一度レギオンを見た。
(………?)
何やらレギオンが、口を動かしている。
よく目を凝らして、口の動きをよむ。
(…あ…い…し…て………る……………?!)
理解した途端、顔に血がのぼるのがわかった。
『From:雪親 本文:もぅ、レギオンのばかぁ…(*>_<*)』
『From:レギオン 本文:照れてんのか?可愛いーな』
わざとむくれてみるが、何だか嬉しそうなレギオンの顔があるだけで、何だか恥ずかしさが増してしまい、雪親は視線が上げられなくなってしまった。
『From:レギオン 本文:顔、上げろよ。声、聞けないんだから、顔ぐらい見せろよ』
『From:雪親 本文:やだ…恥ずかしいもん…』
『From:レギオン 本文:いーじゃんか。可愛いんだし』
『From:雪親 本文:もぅ…o(*>_<*)o』
メールを送ると同時に、チャイムが鳴った。
「きりぃ~つ、れ~」
号令と共に動く生徒。雪親は携帯をポケットにしまうと、レギオンの元へと向かった。
休み時間は短いのだ。愛しい者の元へ行き、甘い会話を楽しもう




(12) Happy Valentine



2月14日日本国では、この日に女性が男性へ好意を示す為に、チョコレートを渡す習慣がある。
その好意が義理であるか、本命であるかは貰うがわが気になる所だ。
これが日本国にある、バレンタインデーと言う日の習慣だ。
この日ばかりは男も女もそわそわしており、町中がピンク色にも感じられる。

そして、ここにも落ち着かなく過ごす人物達がいた。
「………………」
「………………」
城の一室では、何とも言えない嫌ぁな沈黙が漂っている。
沈黙を醸し出すのは、二人の魔族。
二人共黙ってはいるものの、互いを牽制している気配が室内には満ちていた。
「二人共、お待たせ」
「「雪親」」
「もぅ。一応、『様』付けてよ!お飾りでも、国王やってんだからさ」
ぷぅっと膨れっ面をしているのは、現在アガザルド国と日本国を治める立場にある雪親。
普段の威厳溢れる表情とは違い、今は歳相応の表情をしていた。
「それは、失礼致しました陛下」
「申し訳ありません、陛下」
「ま、いっか。今いるのは俺達だけだし」
満面の笑みを浮かべると、雪親は持っていた箱をそれぞれに渡した。
「はぃ、二人共。ハッピーバレンタイン」
「「………………」」
もらった箱を見つめ、それぞれ互いの箱を盗み見る。
………同じサイズだ。
「いっつも二人には迷惑をかけてるから、そのお礼みたいなものだよ。一応味見したけど…もしかして、甘い物キライだったかな?」
「「とんでもない!」」
音がしそうな勢いで首を振り、二人は箱を大事そうに抱えた。
「そうか…雪親の手作りかぁ…」
「きっと、美味かろう………」
かなり嬉しそうな二人を見て、雪親もくすぐったくも嬉しく思った。
「それで、雪親」
「これは、どちらが本命なのだ?」
「……は?」
先程までの幸せそうな笑顔と打って変わり、二人共今は後ろに黒いもやが見えそうな笑顔をしていた。
「本命だ。よもや、共に義理などという落ちはなかろうな?」
「いや、シュバルツ?凄んでも、間違いなく二つ共義理だよ?」
「はっ!そんな出任せは、きかないぜ!で、どっちなんだ?」
「レギオン近いから!どっちも義理だってば!」
「「嘘だ!」」
頑としてどちらも義理だと認めたくない二人は、まるで駄々っ子の様で雪親は思わず呆れた。
「……ホントは、本命にはハートが描いてある」
「「ホントか!!」」
「でも、恥ずかしいから…帰って開けて?」
それを聞くが早いが、二人はあっと言う間にその場から消えた。
「……………まったく」
取り残された雪親は、呆れた大きなため息を吐き、己宛てのチョコレートなどの贈物の山へと向かった。
「「なぁにぃ~!!」」
同じ言葉が別々の方向から上がったようだが、気にしない。


「…やぁ、シュバルツ」
「…レギオンか」
「お前…」
「貴様…」
「「…………………」」
お互いが、お互いを本命だと思い込んでいるのに気がつくのは、もう少し先。




(13) Whiteday call



~~♪

『シュバルツ?』

「スノーレットか…なんだ?」

『ごめんね?もしかして、寝てた?』

「いや、寝ようかと思ってたとこだ」

『そっか。あのさ、明日の英語なんだけど…』

「訳か?」

『何でわかったの?』

「お前の苦手そうな文法が、あったからな。それに、明日当たるだろ?」

『ばれてた~(笑』

「5文目のヤツだろ。あの<君ならきっと出来るだろうと、僕は信じています>」

『それ!やっぱり<だろうと>なんだね』

「それはいいが、お前いつまでも起きているな。早く終わらせて寝ろ」

『いいじゃん。もうちょっと…話してたいし…』

「分かったが、課題はどうする」

『大丈夫だよ。もう、そこだけだったし~』

「そうか」

『あ~!そう言えば!もうすぐ、ホワイトデーだねぇ』

「そうだな」

『ってか、明日…いや、後数分だねぇ』

「そうだな」

『…………………』

「何だ」

『………別に』

「バレンタインの礼が、欲しいのか」

『違うしっ!!』

「返事の方だろ?」

『分かってんじゃん…』

「それぐらい、判らないでどうするんだ。自分の恋人の事なのに」

『………え?』

「二度は言わんぞ」

『つまり……付き合ってくれるの?』

「そういう事だな」

『……………………』

「スノーレット?」

『……………バカじゃない!そーゆー事は、顔見て言ってよね!!』

「お前………泣いてないか?」

『なっ……泣いてなんか、ないよ!!ってか、明日ちゃんと顔見て言ってよね!』

「分かった。もうそろそろ、寝ろ」

『………寝れるわけないじゃん』

「何か言ったか?」

『何でもないっ!じゃあ、おやすみなさい』

「あぁ。おやすみ」

『シュバルツ!大好き!!じゃねっ!!』

「スノー……って、切れてる……まったく」




  明日、会うのが楽しみだ。




(14) バンパイア




ノック音に普通に出た後、後悔した。

「Good afternoon…」

開けたドアに手をかけたのは、黒い漆黒の髪を撫で付け、同じ色のスーツを着た背の高い男。
これでは閉められない。
もとより、この男に力で勝てる訳がない。
彼は…………バンパイアなのだから。

「お邪魔するよ」

そう言うと、いともたやすく彼は室内に入ってきた。
失敗した。
あれほどドアを開ける前には、覗き穴からの外のチェックを怠らない様にと言われていたのに……

「どうやら、今日はハンター君はいない様だな」

その通りだよ。
今、まさに貴方とシュバルツ両名を捜索中だ。

「……ご用件は、何でしょうか?」
「素敵な薫りがする君に、俺の欲望を挿しに」

ニヤリと笑うレギオンは、やはり綺麗だった。

「……何でバンパイアって、そう言い方が下世話なんだろう」
「相手を惑わせ、血をいただく為に艶やかな言葉使いなんだ」

批判を何気ない様に言い返した
………クスクスと笑うレギオンは、そのまま我が家の様にソファーに腰掛けた。

「雪親、そんな所にいないで君も来ないかい?」
「……………」

いつまでも玄関先にいても仕方がないので、ドアを閉めて中へと入った。

「君は、ホントにいい薫りだ…」

ソファーに座りながらそう言ったかと思えば、気がついたら後ろに立っている。
これも、毎回の事。

「堪らない……」
「立ったままは、行儀が悪いですよ」

わざと冷たく言い放つ。

「クックック……全くだ。俺とした事が、失礼した」

首筋をベロッと舐め上げると、俺をエスコートする様にソファーへと連れて行く。
俺が腰掛けると、目の前の床に片膝を着いた。
まるで、祈りを捧げる聖職者の様に……右足を持ち上げ、靴を脱がせる…

「美しい…」

半ズボンから伸びる素足を、何度も撫でる。

- チュッ…

「んっ…」

爪先に口付けられただけで、上がってしまう声。

「もう少し、我慢してくれるかい?」

爪先から、ゆっくりと膝や太ももへと上がって行く手。
いつしかズボンの中へと入って、太ももの内側を撫でる。

「………っはぁ」

甘い刺激に、口から吐息が漏れる。
手を追う様にレギオンの唇も膝を上がり、太ももの内側に痺れを残す。
左足も同様に、ゆっくりと優しい掌と口付け。

「んっ……」

俺は、何の抵抗もせずにただ感じているだけ。

「クックック…素晴らしい」

その言葉を聞いた次の瞬間には、何故か既にズボンと共に下着まで脱がされていた。

「何してるの………万年発情期」
「さぁね」
「何で下着まで脱がせる訳?」
「この方が、眺めがいいもんでね」

そう言うと、半分だけ立ち上がっていた俺のモノをそっと撫で上げた。

「っぁ……」

ひんやりと冷たい手が、房をやんわりと揉む。
それだけで、反応してしまう己の身体を忌ま忌ましく思う。

「そんなに、嫌そうな顔をしなくても」

苦笑とも、困っているとも、哀しそうとも取れる顔。
レギオンのこの表情の理由を、俺は知らない。

- ガリッ

「くっ!!」

何の躊躇いもなく、太ももの内側に突き立てられた二つの刃。
鈍い痛みと共に感じるのは、生温い血を舐める冷たい舌の動く様。

「………っ」

その間も、途切れる事の無い俺のモノへの愛撫。
必死に唇を噛み締めて、声を押し殺し、理性を繋ぎとめる。

「声を殺さずとも、いいではないか…」
「はっ…お…断りっ……だっ」

満足したのかペロリと傷口を舐め、口の端に着いた血を真っ赤な舌で舐めとる。

「我慢は身体に毒だ」
「貴方に……言われ…たく、無いね…」
「……全くだ」
「?………?!」

一瞬、レギオンの様子が違った気がする…
しかし、そんな事を考えている間もなく突如としてレギオンが俺の自身を口に含んだ。

「何っ……あっ……ひゃぁっ!!」

あまりの驚きに、思わず出てしまった声に、慌て両手で口を塞ぐがもう遅い。

- それで、いい。

そう言う様に満足そうに微笑むレギオンの顔が、そこにはあった。
意地でも声なんか出すもんか……先程よりもきつく唇を噛み締めて、続く愛撫に耐える。
レギオンは、口の中で裏側の感じやすい所を執拗に舌で上下する。

「んっ……」

先を顕にされ、円を描く様に強く、優しく……

「……はっぁ……」

丁寧に舌を絡め、ゆっくりと上下に…

「っぁ……」

次第に緩急をつけて。
手は太ももや、柔らかな房を時折撫でる。
快感が頭を満たし、他に何も考えられない。

「ぁっ………も……だ……だめ………」

そう小さく訴えると、一際強く吸われ

「あっ……あぁっ!!」

呆気なく、達ってしまった。
グッタリとソファーに寄り掛かり、倦怠感をやり過ごそうとしたら、レギオンは突然俺の腰を掴んだ。

「えっ?!」

驚き混乱する俺に構わず、そのまま後ろ向き…ソファーの背もたれに手をつかせ、座面に膝立ちになるようにした。
更に腰を引き、お尻を突き出す格好にする。

「ぁ……ぃゃ……」

恥ずかしい……これじゃあ、まるで俺が誘っている様だ……そう考えると、羞恥心で真っ赤になる。

「ぁっ……」

既にひくつく粘膜に、レギオンの口から粘つくナニカを注ぎ込まれる。
舌で入口を弄ばれ、再び前も己を主張しだす。

「余程、ここに欲しかったと見える…」
「っ!!」

何の前触れもなく、差し込まれた指。
細く、長いそれは、奥の方までゆっくりと探るように動き回る。

- くちゅっ…くちゅっ

精液の嫌らしい水音が、耳からも犯す。

「んっ……んん……」

背もたれを必死ににぎりしめ、唇を噛み締めて下をむき目をつむる。
快感に呑まれてしまわない様に。
己を保っていられる様に……

「今夜は随分と我慢強い様だ」

それすらも楽しげに見ているであろうレギオン。
ずぷっという水音と共に感じるのは、粘膜を更に押す増えた指の感触。

「っ!!」
「クックックッ…気持ち良いかな?雪親君」
「はっ……はっ……」

息をするのが、精一杯だ……苦しい…気持ちいい…辛い…もっと……

「さぁ、そろそろいいだろう…」
「あっ!」

一瞬の喪失感の後に不意に感じた熱は、一気に俺の中へと侵入する。

「~~っ!!!!」

今まで以上の快感に、たまらず更に強く唇を噛んだ。
ガリッという音と共に、口の中へ広がる鉄の味。

「そんなに噛むから、切れてしまったじゃないか…」

顎を捕らえられ右へと向かされると、深く口付けられた。
角度を変え、何度も何度も…

「ん…んん……はぁ……」

時折唇や舌に触る牙の感触が、彼が確かに人外なのだと主張している様だった。
やっと離れると、細い銀糸が二人を小さく繋いでいた。
もう一度顔を近づけ、俺の唇を舐めるとレギオンはふんわりと優しく笑った。
………ズルイ。
一瞬気を抜いた瞬間に、一番深く感じる場所を、執拗に攻められる。

「んっ!んんっ!!」

快楽の波に、呑まれてしまう……己を保てない…腰を掴まれ、浅く、深くと欲望を煽る。

「も……や……」
「そうか…ならば、イこうか」
「んっ!」

一度ギリギリまで引き抜かれ、一気に一番奥を突かれる。

「あぁっ!!」

背中をのけ反らせ、二度目の欲を吐き出すのと同時に、身体の中へと熱が放たれるのを感じて意識を手放した。



「ただいま~。雪親?」

ガチャリというドアを開ける音に、ふっと目覚めた。
………あのまま寝てしまったんだ!何も片付けていない。ソファーも、己の躯も。
きっと、この部屋には情事の残り香が充満しているはずだ。
見つかりたくない…大切な兄には、一番知られたくない…

「何だ、いるじゃないか。ん?………」

もう……駄目だ。
深く溜息を吐くと、ゆっくりと起き上がった。

「駄目じゃないか!!窓を開けてちゃ!」

窓?そう言われれば、開け放たれた窓から穏やかな風が吹き込んできている。
ソファーは?……何事も無かったかの様に、そこに鎮座していた。
そう言えばきちんとベッドに寝ているし、衣服も整っている…

「もし僕がいない時にバンパイアが来たら、どうするんだい!」
「ごめんなさい、スノー兄さん……」
「無用心過ぎるよ?今度からは気をつけてね?」
「うん……そうする」

ふぅ…と溜息を吐くと、スノーレット兄さんは困った様に笑った。

「ほら、いつまでもそんな顔してないで。そうだ、今日は…」

スノーレット兄さんの声を聞きながら、腰に残る倦怠感と太ももの内側の鈍い痛みを確かめた。



貴方は、狩られるバンパイア。僕は、喰われる貴方の餌。







(15) クリスマスキャンドル



クリスマスが流れる頃。

「…で、何でお前がここに居るんだ?」

あと数時間で日付が変わると言う時間帯。
そんな時間に雪親がマンションへと来た。

「だって…」
「去年は仲良くクリスマスケーキ、食ったってメール寄越しただろうが」
「うっ…」

そう。恋人であるシュバルツと共にケーキを食べたと幸せそうなメールを寄越してきたのだ。
それを見た俺が、どんな想いでいたかも知らないで。
半分泣きそうな顔をした雪親にそれ以上聞く事が出来なくて、テーブルの上のタバコを取った瞬間、ライターが落ちた。

「……っち」

舌打ちしてライターを取ろうとテーブルの下へ目をやると、半ズボンから見える雪親の足が目に入った。
細く、きめ細かい、白く美しい足……

「…レギオン?」

雪親の声で我に返り、嫌気がさした。
ライターを拾うとタバコに火をつけ、もう一度真正面から雪親を見た。

「で、何でここに居るんだ?」
「だって…シュバルツがヒドイんだよ…」

そんな顔で見つめるなよ…

「会社を始めて、やっと軌道に乗ったのは分かるけど…でも、最近構ってくれなくって…」

それを俺に言って、どうしたいんだ。
何を考えているのか、よく解らない…

「今日だって、せっかくのクリスマスなのに、仕事が入ったって出掛けちゃって…」

室内のクリスマスツリーのイルミネーションが、雪親を妖しく色づける。

「……まぁ、あいつも色々と大変なんだろ?」

理性を働かせ、ちょっと視線を外しながら言う。

「うん……あ!そーいえば!!カノジョ平気なの?」
「……はぁι」

今更かよ。
心配すんなら、最初から夜中に来るなよな。
そう言いたかったが、軽く頷くに留めた。

「あぁ、何か今夜は仕事らしい。それ飾って、帰ってった」

部屋の角のクリスマスツリーを、顎でさしてそう言うと「そっか…」と答えた。
何がしたいんだ?そわそわとして落ち着かない雪親に、変な期待が生まれてしまう。

「…何か、飲むか?」
「あ…うん。もらう」

立ち上がって冷蔵庫を開け、グラスにたっぷりのミルクと少量の酒を混ぜてやる。

「ほら」
「ありがと」

向かい側のソファーから隣へと席を変えてみる。
何か期待してんなら、答えてやろうか…まるで、初恋をした時の様な胸の高鳴り。
『一晩限り…二人だけの秘密だ』そう言って、今すぐ抱いてしまいたい。
そもそも、こんな時間に来る雪親が悪いんじゃないか。
理性と欲望がぐるぐると渦巻く中、見つめる雪親の顔。
最初からそうだった。
いつも雪親は奴を見ていて、俺はすぐそばでその綺麗な横顔をいつも眺めていた。
その視線を向けられるのは諦めたけど、もうイイヒトでいるにはキツすぎる…

「なくなっちゃった…」
「…あぁ、おかわりいるか?」
「うん」

ほんのりと頬を染めて、目を潤ませている。
少し、酒が回りすぎたか?
グラスを受け取ろうとして、指が触れた。

「ぁ…」

小さな声に視線を向けると、何かを求める様な切な気な、それでいて強い視線。
己の中で何かが弾けた。そのまま腕を強く引き、唇を奪う。



遠くで、グラスの割れる音がした。


by T.M.Revolution『Burnin' X'mas』









(16) 誕生日の受難



1月14日。
雪親とスノーレットの誕生日であるこの日は、成人を祝う日でもあった。

「今年は、14日になったんだね」
「去年は12日あたりだったか?」

二人で並んで話しながら、振袖姿の女性の横を通り過ぎた。

「そう言えば、去年は散々だったね…」

雪親が苦笑と共にもらした呟きに、スノーはガックリと肩を落とした。
二人が思い出す去年の誕生日…それは、もはや悪夢としかいえないような日だった。
誕生日だからという理由で、レギオンとシュバルツの両名がいきなり押しかけてきた事から始まった。

ただひたすらに、誕生日だからと言う理由で様々な高価なプレゼントを贈ろうとしたり、豪華なレストランへ行こうとしたり…
あまつさえ、お持ち帰りしようとしているものだからたちが悪い。
両名とも双子にぼろぼろにされてその日を終えた事は、仕方が無い事であろう。

「本当に、なんであの二人はあんなに馬鹿なんだろうね」
「ほんと、元々頭はいいのにね」
「そうだよね。何で俺たちのことになると、あんなに馬鹿なんだろう?」
「ま、僕達にそれだけベタ惚れってことなんでしょ?」
「「いい迷惑だねぇ~」」

にっこりと天使の笑顔を浮かべながら、酷い事をいう双子。
そんな事とはつゆとも知らず、二人が帰宅するのを今か今かと待ち構えるレギオン、シュバルツ両名。

今年の誕生日も、双子の受難は続くようだった。



.