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春色の君

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春になると、いつも見つけた。
電車をホームで待っていると、向かいのホームに立つ姿。
スッと佇んでいるのに、何処か儚げで、それでも明るさが溢れている。
一人で真っ直ぐ立っていて、晴れの日も、雨の日も、風の日も……
毎日、毎日、同じ場所にたっていた。
毎年、この時期になると立っていて、気がつくと居なくなっている。
ほんの数週間だけの、その人。
気がついたら、毎年探していた。

あぁ、今年もそろそろだな…

そう思いながら、今日もホームに立つ。
あの姿は何処にもない。
その次の日も…そのまた次の日も…
あの姿は、見つからない。
毎日、毎日、向こう側のホームを見つめる。
それでも、あの人は見つからない。

もしかしたら、もうやって来ないのかもしれない。

そう思うと何だか切なくて、何だか悲しかった。

どんどんと暑くなり、涼しくなり、寒くなり、また暖かくなった。
それでも、あの人はいない。
また、 暑くなり、涼しくなり、寒くなり、暖かくなった。
やっぱり、あの人はいない。
ふたたび、暑くなり、涼しくなり、寒くなり、暖かくなった。

ふと気がつくと、あの人がいたところに、小さな子供が立っていた。
あの人によく似た、小さな子供。

明るくて、優しげで、儚くて、力強い…

気がつけば、走り出していた。
いつも見ていた、ホームの向こう側。

息を切らせて、子供のもとへと走っていくと、子供は目を真ん丸にして驚いていた。

「あ、あのっ!」

ビックリした顔でこっちを見る小さな姿がゆるゆると揺らいで、ふわりと風に乗るようにホームの端へと向かっていく。
見つめていると、コンクリートの隙間に生えた、小さな花へと消えていった。

そう言えば、数年前にホームの補修がされていた気がする。

「あれは、君だったんだね」

そっと小さな花へと囁いて、ボクはふたたび反対側のホームへと向かっていった。

柔らかな色合いの、強い花。
君はずっといたんだね。

コンクリートの隙間から、力一杯生きている。

来年も君は居るのかな。
蒲公英色の、服を着て。






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