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学/バサ 2

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(1)作法室
(2)保健室
(3)学園菜園(の様な花壇)
(4)美術準備室
(5)生徒会室
(6)音楽室
(7)個別授業
(8)呼び出し
(9)風邪
(10)





(1) 作法室



授業の終わった放課後。
部活動や帰宅。はたまた遊びに向かうために、生徒はそれぞれが思うがままに動き出していた。
そして彼女も他の生徒と同様に部活へと向かうべく、愛しの謙信が待つであろう部室である作法室へと向かっていた。

「謙信様をお待たせしては、ならない………あぁ、謙信様ぁ~!」

右手に書道セット一式を持ち、頭は謙信いっぱいにして、いつの間にか着いていた作法室の扉に手を掛けた。

- ガラッ

「謙信さッ……ま…」  

かすがが扉を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

「よしっ!次は幸村の右足が青!」
「ぬぅおっ!!」

- バンッ

「旦那、やる~♪え~っと?あ、鬼の旦那は左手黄色だって~」
「おらよっ!」

- ドンッ

「まだまだイケそうだな…Hey、上杉先生よぉ。右手を緑だぜ?」
「みどりですか…あぁ、ここですね」

- ストッ

マットに描かれた丸い、色とりどりの円…その上に奇妙な体勢で固まる幸村、元親、謙信の3名。
その横では、何かボードに着いた針を回し指示を出す慶次、佐助、政宗の3名。

「……………」

あまりの光景に、愕然とするかすが。

「おや、つるぎ。もう、そんなじかんですか」
「あ、かすがじゃん」

ふと、変な体勢の謙信がかすがを見つけて声をかけてきた。
あそこでやっと我に返ったかすがは、わなわなと震えながら声を絞り出した。

「い……一体、な…何を……」
「「「「「ツイスター」」」」」
「だそうですよ」

そう。よく合コンやらパーティーやらで登場するアレだ。

「いやぁ~、掃除してたまつ姉ちゃんが見つけたのを、持って来たのは良かったんだけど何処でやろうって話しになってさぁ~」

んで、ここに来たら謙信センセが良いって言ってさぁ~。
と、ニコニコと何の悪気も無い笑顔で、慶次が笑った。

「…………………………………そうか、貴様か前田慶次」
「へ?」
「謙信様に、何て事をぉっ!!」

ブチ切れたかすがは、素早く書道セットから文鎮を取り出すと、青ざめる慶次に向かって容赦無く投げ付けた。

「えっ?ちょっ?!」
「貴様らも、命惜しくば出て行けっ!!」
「「「!!」」」

凄まじい勢いのかすがに気圧される様にして、皆方々の体で逃げ出した。

「おもいのほか、たのしかったですね」

それを横目に、実に楽しそうに謙信は微笑みながら茶を啜るのであった……

「私が来るまで、何故待たなかったのだ!!」
(((((やりたかったんかぃ!!)))))




(2) 保健室



窓から温かい陽気が差し込む保健室。
今日も良い天気だ…、と思いながら、窓から外を見た半兵衛。
ちょうど授業終了のチャイムが鳴ったところだった。
ガヤガヤとどこかのクラスが体育を終えて帰っていくのを、半兵衛は何の気なしに眺めていた。

「あっ…、秀吉だ…」

調度、運動場をジャージ姿で横切る秀吉を発見した。

「!!!!!!!!っ」

お茶でも…半兵衛が声を掛けようとした正にその瞬間。
生物教師の光秀が、スッと秀吉の影から現れた。

『何故、彼が秀吉の隣にっ?!』

ガッと保健室の窓から身を乗り出し、よく見ようとする半兵衛。
何やら話が弾んでいる様で、穏やかに談笑する二人。

『あぁ!もぅ、我慢出来ないっ!「ひで…!!!!」

いい加減、嫉妬に狂った半兵衛が秀吉を呼ぼうとした瞬間、グッといきなり二人の顔が近付いた。

「!!!!!!」
「セ~ンセ~、バンソーコーちょ~だ~い?…………って、あれ?半兵衛センセ?」

佐助が生きる屍と化した半兵衛を見つける頃には、秀吉と光秀はグラウンドから消えていた。


「やぁ、豊臣君」
「……貴様か」
「おやおや、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃありませんか」
「……何用だ」
「別に何も?おや?少し屈んで貰えます?ゴミが…」
「………うむ、すまぬ」
「フフフ……構いませんよ」

全てを知る光秀は、一人楽しそうに笑っていた。




(3) 学校菜園(の様な花壇)



心地のよい午後の太陽の光を受け、美しく輝く大根の葉……

「…あぁ、今日も良い日和だ…。」

と、一面に広がる野菜畑を前に、太陽に顔を向ける数学教師の片倉小十郎。
何とも場違いなスーツ姿の首元には、目にも眩しい真っ白な手ぬぐい。
その手元には、同じ色の軍手が装着され、足はキッチリ長靴が履かれていた。
因みに、ここは学校花壇の一部であり、主に家庭科の授業に使われる野菜が栽培されている。
家庭科の教師の前田まつと交代で、野菜達の世話をするのが彼の日課である。

今日も今日とて、水を掛けながら、大きく育てよ、お前達。 と、謎の呪文を呟きながら水やりを していた。
水やりも終盤に差し掛かり、あともう一列で終わると言う時……

「…んだとっ!!??」

小十郎が目にした、菜園の最後の一列…
そこには土の軟らかな茶色に紛れ込む、硬質な茶色……
同じ色のはずなのに、何故かサンサンと輝く太陽の光を反射させているソレ。
小十郎は、愕然とソレを見つめる事しか出来なかった。
すると、どこか少年を思わせる様な声がその場に現れた。

「いたっ!!見つけたぞ、忠勝っ!!」
「………家康」

その声に小十郎が視線を向けると、黄色いスーツをはためかせながら、英語教師の徳川家康が菜園の方へと走って来ていた。

「よ~し、見つけたぞ忠勝っ!」

そう言い、満面の笑みを浮かべると、畑に埋まっていた硬質な茶色にぽんっと手を置いた。

- ギュイ~ン

「ハッハッハ、そんなに落ち込むな!じゃぁ、次は忠勝が鬼だなっ!30数えている間にワシが隠れるから、しっかり探せよ?」

- ギュキュイ~ン

「よし、よーいドンじゃっ!」

仲睦まじ気に(?)話した後、満面の笑みを浮かべて家康は走り去り、家庭菜園に埋まっていた本田忠勝は起き上がった。

- バサバサバサ

畑から見事に掘り起こされる、土と野菜たち。
それからキッチリ30秒後に忠勝は熱風を噴き出し空の彼方へと飛び立ち、キッチリ40秒後には本田忠勝、徳川家康両名を捕らえるべく、小十郎が学校内を目指し走りだす姿が見られた。

今日も第六天高校は、平和である。




(4) 美術準備室



授業中の美術室。
授業を終えた松永が一人、この美術室に残っていた。

「ふむ…、これもなかなか…」

と悦に入りながら、織田校長の肖像画に落書きをしていた松永。
次に、各生徒達の粘土作品の採点付けへとやっと仕事をしに向かった。
幸村、政宗、長曽我部の作品を素通りし、市の負のオーラ漂う作品に二重丸をつけた時

- ガダゴトッ

隣の美術準備室から、何やら物音がした。

(…この時間は、誰も来ぬはず)

物音に、訝し気に美術準備室へと入る松永。
扉を開けると、そこには何故かまつが居た。
彼女が立っていたのは、松永の趣味がかなり詰まった抹茶茶碗を始めとした、焼き物を飾った棚の前…

「………卿は、何をしているのだね?」

棚から、明らかに松永の物だとわかる皿を手にして、固まっているまつ。

「………………。」
「………………。」

嫌な沈黙を破ったのは、まつだった。

「お貸し下さりませっ!!」
「だが、断るっ!!」

間髪入れず断る松永に、むくれるまつ。

「ケチくさいですわねぇ~」
「所詮、あの阿呆の料理に使うのだろう。皿の価値も解らぬ輩に、貸す余地など無い」

フンッと小ばかにした様な笑みを浮かべて、松永が腕を組むと、まつは皿を抱きしめ、シュンとした。

「佐用でござりまするか。ならば……………勝手にお借り致しますわっ」

言うが否や、まつはダッシュをかましてその場から立ち去った。

「……熾烈」

額に青筋を立てると、松永も一気に走り出した。


第一回、皿争奪戦の火ぶたが、今切って落とされた。




(5) 生徒会室



生徒会室

ざわざわと昼休みを楽しむ学生の声が、生徒会室にも響いていた。
早めに済ませた昼食の後の昼休憩を利用して、雑務を片付けていた長政。

「これも、生徒会長の務め…正義の務め!!」

何やら変な使命感に燃えながらも、一人黙々と作業を進めた。

「今日も学園は平和だ… 」

と、ふと窓から顔をだして、生徒で賑やかなグラウンドを眺めた…  
何やら、この長閑な雰囲気とは違った声が聞こえ、その方向に目をやった。

「なッ…!!」

長政が窓の外を眺めると、そこには…

「逃げろ、忠勝っ!!」

- ギュイィイン!!

「っの、待ちやがれ!!!」

本田忠勝の肩に乗り指示する家康と、それを修羅の如き形相で追い掛ける小十郎。

- ブフォ~!!

「キャアッ!」
「うわぁっ!」

飛ぶ本田忠勝の風に迷惑する生徒…

「あ、あ、悪めっ!!」

ブチリと何かがキレた音がした。

「生徒の見本とならぬ教師が、揃いも揃って生徒に害成すとは何事かぁっ!成敗してくれるっ!」

大声で叫ぶや否や、窓枠を飛び越え華麗なる跳躍にて本田忠勝の前に立った。

何処から出て来たのか、その手には細身で長めの紅白に彩られた木刀が握られていた。

「さぁくじ…」
「長政様…待って…」
「?!」

紅白木刀を振り上げ、いざ叩きのめさんとした瞬間、長政の耳に小さな声が届いた。
その声に驚き固まる長政と、何やらいきなり動かなくなる教師陣の3名

「かっ、身体が動かねぇっ!」
「手が…手が見えるっ!!た、忠勝っ!」

- ギュイン!

……家康は霊感が強かったらしい。
動揺を見せる4名の前に静々と現れたのは、やはり市だった。

「市、何故ここに?」
「長政様…ごめんなさい……全部、市のせいなの……」
「どういう事だ?」

今にも泣き出しそうな市に、訝しげに聞く長政。

「市が……かくれんぼ、した事が無いって言ったら…家康先生が……」

つまりは、かくれんぼを3名でやっている途中で、忠勝や家康が小十郎に迷惑をかけて、逃げ回っていた…と言う事らしかった。

「だから、全部市のせい……」
「ならば市。お前は罰として、この昼休みと放課後は生徒会室に来て、書類整理の手伝いをしろ」
「生徒会室……?」
「そうだ」
「長政様の、お手伝い……?」
「あぁ」
「…市、頑張る」
「よしっ、ならば行くぞ!」
「はぃ…」

何やらピンク色の空気を漂わせながら、2人は生徒会室へと向かった。


「おいっ!ワシ等はどうなるんじゃあ~!!」




(6) 音楽室



「ふふっ…ラブラブなお二人さんだ事」

と、グラウンドを見下ろしながら呟く、美人音楽教師濃姫。
グラウンドには、真っ赤な顔で手を繋ぎ歩いていく男女の学生が居た。
ちらりと壁際の時計を見やり、そろそろ職員室で昼食しようかしら…と、音楽室の扉へと向かった。

「!」

音楽室の扉を開けたその目の前には、満面の笑顔と何やら素敵な香り。
きょとんと相手の顔を見つめると、その人物はぐいっとその両の手に抱え込んでいたものを濃姫に押し付けた。

「濃姫様っ、このまつめの料理をお召し上がり下さりませ!!」
「ま、まつ…」

両手に抱えた皿いっぱいに乗ったのは、とても美味しそうなちらし寿司。

「是非、信長様と共に!そして、二人の仲を益々深きものになさいませっ!!」

何が嬉しいのか、満面の笑みに興奮した口調で一気に喋ると嵐の如くまつは濃姫の前から消えた。
ちらし寿司を両手に抱え、ポカンとまつが消えた先を見つめる濃姫に、今度は別の人物が声をかけた。

「奥方」
「きゃぁっ!……あ、あら。松永先生」

そこにいたのは、珍しく何処か焦った様子の松永だった。

「あの前田の奥方が、何処に行ったか知らんかね?」
「まつ…ですか?」

濃姫は訳が分からずキョトンとして、先程まつが去って行った方向を指差した。

「あちらの方へ参りましたが…」
「失礼!」

聞くや否や、松永は瞬く間にそちらへと走り出した。

「……………上総介様と、いただきましょう」

素晴らしい器に入った、美味しそうなちらし寿司を抱え、織田校長の居る校長室へと濃姫は向かった。


「……よい器だ」
「全くですわ」


中身は2人に美味しく頂かれ、そして器は校長室に飾られた。

(7) 個別授業



音楽室。
ポロンポロン、と若干ゆっくりなリズムで、拙いピアノ演奏が室内に響く。

「もうそろそろだべか~」

ふと、手を止めて時計を見上げるいつき。
あまりにもいただけないピアノの技術を見かねた音楽教師・濃姫が、いつきと蘭丸に個別授業を行う事になっているのだ。
すこし遅れるから、先に行ってて。と言われ、かれこれ待つ事20分。
廊下からタタタッ と、小走りな足元と共に、ガラリと扉が開かれた。

「蘭丸ッ?!!んなぁ?!」

開いた扉から入って来た人物を見て、いつきは衝撃を受けた。
やって来たのは、この学校の番長・長曽我部元親だった。

「…わりぃな、邪魔して」
「だだだだだ大丈夫だべっ!!」

有名人の登場で焦るいつきに、元親は困ったように笑った。

「悪りぃが、ちっと隠れさせてくれ。追われてるからよぉ…」

そんな説明をしながら、音楽室を見回すといつきが座るピアノの反対側…今入って来た扉から死角になる位置に、移動し床に座り込んだ。

「ふぅ………ったく、政宗があんな罰ゲームなんて考えるから…」

ぶつぶつと文句を言う元親に、視線がくぎづけのいつき。

(ふぁ……綺麗だべ…)

いつもは見上げるばかりのいつきだが、今日は相手が床に座っているため見下ろす形となり、何だか不思議な感じがした。
ぼんやりと眺めていると、ふとその視線に気がついて視線を上げた元親と、目があう。

「あっ!えっ!おっ!」
「……ックックック。面白ぇ奴」

笑われてしまい、顔を真っ赤にしていつきは再び鍵盤を押さえ始めた。
下手くそながら、一生懸命に弾くいつき。

「長曽我部ぇ~!!どこに行ったぁ~~!!」

外では何やら女性が元親を探している様だったが、いつきはピアノを弾くのに夢中で気がつかなかった。
ふと気付くと、うつらうつらする元親が視界に入り、思わずクスリと笑いが零れた。
小さい音での演奏会は、遅れて蘭丸がやって来るまで、静かに続いた。




(8) 呼び出し



朝の学校風景。
比較的朝の登校時間が早いかすが。上杉の待ち伏せが約8割である。
今日も変わらず靴と上履きを履き変えるため、パタリと自分の下駄箱を開ける。

「…なんだ、コレは…」

そこには、靴の上に載った白い封筒。
訝しげにそれを持ち上げ中を開くと

『放課後、屋上』

と、だけ書かれていた。

「?????」

クエスチョンマークを浮かべつつも、謙信に欠かさず会いに行き、迎えた放課後。

- ばんっ

かすがが屋上に行くと、そこにはフェンスにもたれ掛かる元親がいた。

「何用だ、長曽我部元親」
「………………マジに来た」

あからさまに嫌な表情をする元親に、かすがは眉を潜める。

「何だ、貴様。人を呼び出しておいて、その態度は。この私が、わざわざ謙信様との時間を削ってまで来てやったと言うのに、何と言う言い草だっ!その根性…叩き治してやるっ!!」
「うわっ?!ちょっ!待てって!」

止める元親を無視して、どこからか取り出した文鎮を投げ出すかすが。
必死で屋上から逃げ出した元親を、一応文鎮を拾ってから追い掛けた。やはり文鎮回収に時間を割いた為、元親の姿を見失った。

「っち……!」

と、ちょうどそこへ、パタパタと軽い足音をさせて下級生の蘭丸がやって来た。

「おぃ。止まれ」
「?!!」

ビックリした様子で、かすがを見上げる蘭丸。

「この辺りを、長曽我部元親…眼帯を着けた銀髪の奴が走って行かなかったか?」
「蘭丸の横を走って、あっちに曲がった」
「そうか…すまない」

軽く蘭丸の頭を撫でると、かすがは指差された方へと走り出した。

「長曽我部ぇ~!!どこに行ったぁ~~!!」
「………へへ~ん、嘘だよ~だ」

にぃ~っと笑って、音楽室へと向かう蘭丸。
いつきが男とふたりっきりだったと気がつくまで、蘭丸は己のいたずらに満足していた。




(9) 風邪



風邪をひいた。
そう聞いた瞬間、誰もが思った。
馬鹿でも、風邪をひくんだな…と。


それは、朝の授業前のちょっとした時間での出来事。

「なんか、今日は前田先生の技術ないらしぃよ」

佐助が鞄を置き、椅子に座りながらそう言うと、キョトンとした表情で元親が口を開いた。

「なんでだ?」

何気に、技術の授業だけはきっちりと出ている辺り、この話しは少々残念だった様子である。

「何でも、風邪を召された様子で。奥方であるまつ先生殿も本日はお休みされるそうだ」

幸村が鞄の中からパンを取り出し、噛り付きながら説明した。

「さっき教務室行ったら、調度電話がかかってきててね~」
「………The fool does not catch cold(馬鹿は風邪をひかない)ってのは、嘘だった訳だな」

笑いながら面白そうに言う政宗に、こっそりと小太郎が頷き同意した。

「ふんっ……しかし、馬鹿は馬鹿であろう」
「まぁ、そう馬鹿馬鹿言うなよ。お前にかかっちまえば、殆どの奴らが馬鹿になんだろ?」
「貴様もその一人だがな」
「…………だな」

踏ん反り返る元就と、しょぼくれる元親。

「で、今日は前田の風来坊はいない訳?」

いつもなら威勢よく現れる人物が今日は居ない事が気になり、佐助は小太郎を見た。

「(ふるふる)」

首を横に振り、素早く携帯のメール作成画面に何か打ち込み見せた。

『まだ来てない。もしかしたら、休みかも』

横からそれを覗き込みながら、元親が笑った。

「これで風邪だったら、あの諺は完全に嘘だな」
「はっ…あの祭馬鹿が風邪なぞひくはずも無かろうが」
「ちょっ!毛利の旦那、それ酷くない?」
「Hey、幸村。お前は風邪ひいた事ねぇだろ?」
「その様な事御座らぬ!某とて、風邪の一つや二つ!!」
「そだね~、小学校に上がる前に一回ありましたねぇ~」
「ほぅら!」
「寝てろって言った人の話し無視して、鍛練が足りぬ~とか言って極寒の雪空の下上半身裸で寒風摩擦やらかして、見事に悪化させてくれましたよね~」
「「「「「……………」」」」」
「ん?」

何やら周囲の温度が2,3度下がった所で、佐助の携帯が全身を震わせて着信を知らせた。

「……………………前田の風来坊、風邪ひいたって」
「「「「「…………」」」」」

佐助の携帯画面には短い一文が光る。


『風邪、ひいた』




(10)